今回は大規模な災害が発生した時に、被災した中小企業に対してどのような支援策が講ぜられるのかについてまとめてみます。
それは、転ばぬ先のつえとして、
・事業を営んでいる土地でどのような重大災害が発生する可能性が高いかを調査
・その災害が発生した時に自らの事業にどのような影響が生じるかを予測
・必要な対策をあらかじめ講ずる場合は国が一定の支援を行う
という内容でした。
これは、東日本大震災をはじめとする昨今の災害が多発する傾向とその被災状況を踏まえて制定された、新しい予防保全の制度です。
今回解説するのは、いったん重大な災害が発生し被害が発生した場合に、国が講ずる支援策についてです。実際に重大な災害に遭遇して、自らに大きな被害が発生すると、その対応に追われ、どのような支援が国や自治体から得られるのかを調べる余裕がなくなることが予想されます。
普段から制度の枠組みを把握し、必要な連絡先などを整理しておかれるとよいと思います。
【目次】
1.災害の発生状況
2.災害に対する法制度の体系
3.災害救助法および激甚災害法における中小企業支援策について
4.まとめ
災害の発生状況
「以前に比べて災害が増えた」という話題を耳にすることがあります。また、実際にそう感じている方も多いのではないでしょうか。
ここでは、台風と地震というわが国で代表的二つの災害の発生件数の推移を見てみます。
グラフ1は、2009年から2018年までの震度5弱以上の地震発生件数の推移です。
東日本大地震が発生した2011年を境に発生件数が増加しているのが見てとれます。
2019年に入ってからも、日本各地では大きな地震が発生しています。
1月3日には熊本県熊本地方でM5.1(最大震度6弱)、2月21日には北海道胆振地方でM5.8(最大震度6弱)、また6月18日には山形県沖でM6.7(最大震度6強)を記録する地震が発生し、いずれも負傷者や家屋損壊の被害をもたらしています。
グラフ2は、同じ期間、つまり2009年から2018年までの台風の発生件数の推移です。
これも近年は増加傾向にあることがわかります。
2019年秋、台風が次々と日本列島を襲い、各地に甚大な被害をもたらしたことは、記憶に新しいことでしょう。
千葉県を襲った台風15号は、広範囲で長期に渡る停電や断水、膨大な数の住家損壊、過去最大級の農林水産業被害が発生し、生活や産業活動に大きな影響を及ぼしました。
台風19号は静岡県に上陸。関東甲信越、東北地方で記録的な豪雨をもたらしました。多数の河川決壊による浸水被害や土砂崩れなど、被害は広範囲に及びました。2019年11月現在、復旧のめどが立っていない道路や交通機関も多数存在し、住民はいまだ片付け作業に追われている状況です。
台風15号と19号の爪痕がまだ大きく残る中、日本列島に接近した台風21号は、千葉県や福島県に半日で平年の10月ひと月分を上回る雨量をもたらし、復旧に向けて動き出した被災地にさらに大きなダメージを与えました。
これらに加えて、火山活動や集中豪雨、竜巻・突風等が以前に比べると多くなっているように感じられると思いますが、これも統計を調べてみる価値はありそうです。
災害に対する法制度の体系
昭和34年、伊勢湾台風が来襲しました。
この年の9月20日に日本のはるか南海上で発生した熱帯低気圧は、翌9月21日に台風となり、急速に発達しながら北上しました。9月23日午後3時には894hPa、中心付近の最大風速は75m/s(米軍の観測では90m/s)に達する猛烈な勢力となり、9月26日午後6時に強い勢力を保ったまま潮岬付近に上陸し、紀伊半島を縦断して中央高地を越え日本海に抜けました。この時伊勢湾での高潮被害が顕著であったことから、伊勢湾台風と名付けられています。
この台風の被害は、犠牲者(死者と行方不明者)5,098人、負傷者38,921人、物的損害7,000億円超という大規模なものでした。ちなみに、この台風による犠牲者の数は1995年に阪神淡路大震災が発生するまで、わが国の戦後の自然災害として最大のものでした。戦争中の山林の乱伐や戦争被害による国家の極度の疲弊等が原因で、台風などの自然災害の被害が終戦後に目立つようになり、その中でも最大の被害をもたらしたのが伊勢湾台風だったのです。
この災害を踏まえ、国や地方公共団体等が連携した統一的かつ計画的な防災体制の整備の必要性が、強く認識されるようになりました。その結果、昭和36年に災害対策基本法が制定されたのです。
この法律は、「国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護するため(中略)もって、社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする」としており、
・国・地方公共団体の責務
・防災に関する組織
・防災計画
・災害対策の推進
・被災者保護対策
・財政金融措置
・災害緊急事態
について定められている、文字通り災害対策の「基本法」というべき法律です。
この災害対策基本法の下、災害類型ごとに予防と応急対策の分野について、個別に法律が制定されています。復旧・復興の分野については、全般について定めた「激甚災害法」と、分野ごとに個別に法律が定められるという体系になっています。
具体的には、表1を参照してください。
このうち、激甚災害制度について、詳しくみていきましょう。
災害救助法および激甚災害法における中小企業支援策について
災害発生時の中小企業者に対する支援策が、包括的に示されるタイミングは2回あります。
最初は災害救助法が適用された段階で、次がその災害が激甚災害に認定された段階です。
◆災害救助法の適用
下記のアドレスに、2019年の8月の前線による水害に関して、災害救助法の適用が佐賀県下でなされたことに伴う告知が示されています。
8月27日から九州北部で降り始めた雨が、断続的に猛烈な雨となって、降り始めからの雨量がところにより600mmを超えた、というのが8月29日午後1時の情報です。
これに対し、災害救助法適用の告知は8月28日に出されています。非常に速やかな対応であったことが分かります。対応の内容は
①特別相談窓口の設置
地元の商工会議所や商工会連合会、日本政策金融公庫の支店などが相談窓口になります。
②災害復旧貸付の実施
日本政策金融公庫より、災害復旧に要する費用の貸付を受けることができます。
③セーフティーネット保証の適用
信用保証協会による通常の保証とは別枠の保証です。
④既往債務の返済条件緩和等の対応
返済猶予等の既往債務の条件変更、貸出手続きの迅速化及び担保徴求の弾力化などについて、実情に応じて対応するよう要請します。
⑤小規模企業共済災害時貸付の適用
小規模企業共済に加入して一定期間以上掛金を納付していれば、最大1,000万円まで即日の貸付が行われます。
となっています。
大規模な災害によって被害を受けた場合、まずは地元の商工会議所か商工会連合会にご相談されるのがいいと思います。支援策を見ると、全てが地元の商工会議所や商工会連合会、日本政策金融公庫の制度になっています。日頃からこれらの機関とお付き合いしておくことも大切ですね。
商工会議所や商工会の加入数は大幅に減少しています。確かに普段は何をしてもらえるのか、よく分からないようなイメージはあります。しかも、例えば小規模事業者持続化補助金の申請のように加入していなくても受けられるサービスも多いので、入らなくても困らないといえば困らないのですが、やはり入っておいて普段から多少は付き合いがある方が、いざというときに相談しやすいのではないでしょうか。
私は、加入をお勧めします。
◆激甚災害の指定
下記は、平成30年5月20日から7月10日にかけての、豪雨と暴風雨による災害が激甚災害に指定された時の告知文書です。
これは、7月24日に出されています。少し間をおいて出されるのですね。
激甚災害の指定要件の詳細は省きますが、例えば農業被害の見込み額が全国の農業所得額の0.5%を超えるとか、被害総額が比較される指標の一定割合を超える見込みになった場合などに、指定されます。
激甚災害には「本激」と呼ばれるものと「局激」と呼ばれるものがあります。
本激は、全国を対象とするもので、災害を特定してどのような措置を講ずるのかが示されるのに対して、局激は地域が指定されるものです。All Japanで基準に合致する場合が本激、ある一定地域で基準に合致する場合が局激です。
局激には、基準に適合することが確認できた時点で指定される場合と、年度末にまとめて指定される場合とがあります。前者を早期局激、後者を年度末局激と呼んでいます。
つまり、災害救助法と違って、激甚災害はある程度の期間・・・年度末まで目配りしておく必要があるということになります。こちらの中小企業への支援措置としては、信用保証の別枠化や貸付金の償還期間の延長等の措置が講ぜられます。
なお、前述した2019年の台風15号、19号の災害は、既に激甚災害に指定されています。
まとめ
大規模な災害が発生し中小企業が被災した時の支援策は、一義的に災害救助法の適用があります。
この指定は、災害発生後速やかに行われ、相談窓口が設定されるので、被災状況が確認できたら、なるべく早く相談に行くべきです。
相談窓口は、地元の商工会議所や商工会連合会、日本政策金融公庫の支店ですが、身近なのは商工会議所と商工会連合会です。そのため、普段から地元の商工会議所や商工会とは関係を構築していることが望ましいと考えられます。
注:自治体に対応する区域ごとに商工会議所が商工会に設置されています。都市部では商工会場所が、そうでないところには商工会が設置されるのが一般的ですが、都内でも市部では商工会が設置されている場合があります。